長らくブログを放置していたのですが、リハビリがてら、この間arXivに出した論文のことを書いてみようと思います。
興味を持ってもらえると嬉しいです。
はじめに
タイトルは、”F(R) gravity in the early Universe: Electroweak phase transition and chameleon mechanism” です。無料で読める (←ありがたい) arXiv版は、以下からダウンロードできます。
arXiv: https://arxiv.org/abs/1812.00640
この論文は以下の2つの論文の続きです。先にこれらを読んだ方がいいかもしれないです(オススメ)
- “Modified Gravity Explains Dark Matter?” Phys. Rev. D 95, no. 4, 044040 (2017). DOI:10.1103/PhysRevD.95.044040
arXiv: https://arxiv.org/abs/1610.01016
- “Cosmic History of Chameleonic Dark Matter in F(R) Gravity” Phys. Rev. D 97, no. 6, 064037 (2018). DOI:10.1103/PhysRevD.97.064037
arXiv: https://arxiv.org/abs/1708.08702
概要
3行でまとめると、
修正重力理論を使って、暗黒エネルギーと暗黒物質を統一するシナリオを考えます。このシナリオに基づいて、初期宇宙を記述するとどうなるのかを調べました。電弱相転移の前後で大きく性質が変わることが分かって、重力波が出るかもしれないということが分かりました。
という感じです。
背景と目的
まず、暗黒エネルギーというのは、現在の宇宙の加速膨張を引き起こすと考えられている未知のエネルギーです。ふつうは、一般相対性理論(General Relativity, GR)に宇宙定数を導入することで、加速膨張を説明できることが知られています。僕が研究しているのは、宇宙定数に頼らず、重力理論そのものを変更することで加速膨張を説明しよう、というものです。これを「修正重力理論(Modified Gravity)」と呼びます。
(余談ですが、個人的には「修正」という言葉を使うのが嫌いなので、勝手に「beyond GR 」とか言ってます。「MOGRA(MOdified GRAvityなので)」を流行らせたいけど、なかなか広まらない。くやしい)
今回使っているのは、F(R)重力理論という理論で、小難しい操作をすると、一般相対性理論に、「スカラー場(Scalar field)」が導入されることが分かります。スカラー場というのは、 (とても大雑把にいうと)単なる関数です。このスカラー場を使うと、宇宙「定数」だった部分が、「関数」のように置き換わって、これを使って加速膨張を説明することができます。(定数ではなく関数であるということは、有名な「宇宙定数問題」に深く関わってきます)
普通は、これで暗黒エネルギーを説明できます、で終わるのですが、このスカラー場の粒子描像を考えることで、それが新粒子として暗黒物質になるのではないか、ということを提唱しています(ここら辺は、先の2本の論文に書いてあります)。そのために、スカラー場の摂動を考えて、これを量子化するという手法を考えます。直観的には、関数を二つに分けて、一方は暗黒エネルギーを、もう一方は暗黒物質を説明するために使おう、という雰囲気です。
今回使うスカラー場は、周りの様子に応じて、質量が変化するという性質を持っています。これを「カメレオン機構(Chameleon mechanism)」と呼びます。周りの環境によって姿が変わるので、そういう名前がついているわけです。文献によっては、これをカメレオン場と呼んだりしますが、僕の論文では、「スカラロン (Scalaron)」と呼んでいます。このカメレオンな性質のため、僕の論文では、Chameleonic Dark matterという名前を付けました
(再び余談ですが、Chameleonicという単語には、 「無節操な」という意味もあるらしいです。大体合ってますね)
カメレオン機構が無いと、スカラロンは暗黒エネルギーと同じくらいの、とても小さな質量しか持ちません。しかし、カメレオン機構が働くと、スカラロンはとても重たくなります。大雑把に言うと、めちゃめちゃ重たくなる=観測からくる制限を回避できる、ので、一般相対性理論ではない重力理論が許される、という仕組みです。「回避」と書くとネガティブな印象ですが、観測結果と矛盾しない理論を構築できる、という意味です。
今回の論文の課題は、このシナリオに基づいて初期宇宙を考えるとき、スカラロンはどのように振舞うのか、を明らかにすることでした。初期宇宙では、物質の様子が大きく変わるので、カメレオン機構によって、スカラロンの様子も大きく変わるはずです。特に今回は、「電弱相転移(Electroweak Phase Transition, EWPT)」という現象に着目して、その前後でのスカラロンの性質の変化を調べました。
結果
手法を書くと、もう何が何だか分からなくなるので、省略して結果だけ書いてみます。
- 電弱相転移の前後で、スカラロンの質量が劇的ビフォーアフター(!?)する
電弱相転移以前では、カメレオン機構が働かないため、とても軽いのですが、電弱相転移が起こると、カメレオン機構が一気に働いて、めちゃくちゃ重たくなることが分かりました。
- 重力波が出るかもしれない
カメレオン機構が急に働くので、スカラロンが物質に「キック」される、ような振舞いが現れます。この時のキックによって、スカラロンが揺さぶられます。もともと、このスカラー場は重力理論から出てくるので、言い換えると、重力場が揺さぶられる、ということになり、最近話題の「重力波 (Gravitational Wave)」が出るんじゃないの、と予想しました。
- スカラロンの粒子描像との関係
スカラロンが暗黒物質になるためには、実は、振り子のように振動している必要があります。この振動の最初のきっかけになるのが、カメレオン機構によるキックではないのだろうか、という期待が出てきました。これがあれば、僕らが「手で」振動を与えなくても、勝手に振動を始めるのかもしれません。(そうだと嬉しい)
おわりに
出来るだけ専門用語を避けようと思ったけど、まあ無理ですね。数式に頼らずに、イメージだけで書こうとするのには限界があります。けど、意外と楽しかったです。次の論文が出たときにも、同じようなことをやるかもしれません。
全然どうでもいいけど、WordPressのバージョンが上がって、なんだかメンドイことになった ので、元に戻すか悩み中。
それではまた